「人生、楽しもう!」、そんな声が鬱陶しい。私が私の人生を全うできていないからだ。
努力もせず、漫然と日々を過ごし、ただ時間だけが過ぎ去っていく。「このままではいけない」と思っても、踏み出すメンタルもない。情けない。聞こえてくるキラキラした「人生、楽しもう!」の声に、条件反射で耳を塞いでしまう……
どうしようもなくなっていたとき、唯一、耳を塞がずに聴けた「人生、楽しもう!」という声があった。
モーニング娘。’19の「青春Night」という曲だ。
「今」のモーニング娘。
モーニング娘。といえば「LOVEマシーン」であり、「恋愛レボリューション21」であり、「ミニモニ。」であり……。「今のモーニング娘。はよく知らない」という人が多いであろう。最近まで、私自身もそんな認識だった。
しかし、少し調べてみると、今のモーニング娘。はスゴイことになっていた。歌・ダンスともにハイレベルなパフォーマンス集団となった彼女たちは、私の中の「アイドル像」を良い意味で覆した。
モーニング娘。を追いかける中には、「メンバーが努力して、歌やダンスが上手くなっていく」という、アイドル的な成長ストーリーを見ていく楽しさがあるのだが、その努力や成長の仕方が凄まじい。コンサートでは、汗だくで必死に踊り、力強い生歌を披露し、客席を煽りまくる彼女たちは「カワイイ」の向こう側へ行ってしまっている。
その姿勢が評価されたのか、2018年と2019年に、モーニング娘。はロックフェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」に出演した。真夏の猛暑の中、激しいダンスと生歌をやりきった彼女たちは「体力おばけ」という異名を持つことになった。リハーサルでは、暖房30度に設定して、身体を慣らしたらしい。
リーダーの譜久村聖は、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」に関して、以下のように語っている。
“去年初めて私たちはフェスに立たせていただきました。モーニング娘。って20年以上続いていても新たに開拓できるところがたくさんあって、それが私たちの良さだなって思うので。だからこれからは、もう右肩上がりしかしません”
モー娘。ロッキン最大ステージで大観衆を一体化 直談判でギリギリ50分・14曲熱演
きっと、色んな場所で「全盛期」と比較され、苦しんだこともあったであろう彼女たちは、前を向いて、力強く活動している。
なんかうまくいってないけど、人生エンジョイ!
「青春Night」の魅力の一つは、その歌詞にある。
”私の人生エンジョイ!!”
と、元気いっぱいに始まるこの曲。「人生楽しもう!」というテーマの曲ではあるものの、歌詞の中の主人公は「なんかうまくいってない人」なのだ。
サビ前では
寂しい夜が始まる AH
なのに朝を待ってる感覚
眠るのが怖い…
と、含みたっぷりに語っている。
その主人公が、サビに入ると
青春Night
落ち込んでちゃ そんなの勿体無いでしょ!?
青春Night
後悔してる暇も無いの
そんな事全然わかってるWOW WO
と、ポジティブな方へと舵を取る。
幸せいっぱいな人が、幸せだからこそ言えるキラキラな「人生楽しもう!」ではなく、「なんかうまくいってない人」が逡巡しながらも、何とかポジティブさを獲得していく姿が「青春Night」には詰まっている。だからこそ、どうしようもなくネガティブになっている私が、耳を塞がずに聴くことができたのだろう。
曲の最後には、
青春Night
幸せって まっすぐ選ぶだけ
青春Night
幸せをチョイスできない
私は こっから脱出 ”Get away”
と、「ネガティブ沼からの”脱出”」を決意する。”Get away”と、モーニング娘。の歌姫 小田さくらが歌い上げる姿は、最高に清々しい。
今のモーニング娘。の在り方と「青春Night」
「青春Night」の歌詞に説得力を与えているのは、今のモーニング娘。の在り方だ。
現在の彼女たちの活躍は素晴らしいものの、モーニング娘。を「かつて人気だったアイドルグループ」として捉えている人は少なくないと思う。1998年~2007年まで10年連続出場していた紅白歌合戦にも、落選し続けている。
しかし、彼女たちには「今が全盛期だ」と思わせる強さがある。全力でパフォーマンスし、かっこいい姿を見せつけてくれる。
その背後には、モーニング娘。のプロデューサーを務めたつんく♂の語る「ミッキーマウス理論」があるようだ。
どんなに暑い日でも、ミッキーは「暑い」とか絶対に言わないでしょ?ハロー!プロジェクトメンバーにもずっと言ってましたね。「ステージに立つなら、ミッキーマウスと同じ気持ちで戦わんとあかんよ。プロなんだから」って。
「88点の仕事を、88点って言っちゃダメ」つんく♂が語り尽くす“伸びる若手”の共通項
彼女たちに、苦労がないはずはない。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」も、信じられない程に暑かったはずだ。それでも、ミッキーマウスのごとく、目の前にいる人たちを全力で楽しませる強い覚悟がある。
その姿が「青春Night」に重なる。”落ち込んでちゃ そんなの勿体無い”し、”後悔してる暇も無い”し、”幸せってまっすぐ選ぶだけ”なのだ。そうすれば、周りが何と言おうと「今が全盛期」になる。
「人生、楽しもう!」の声をシャットアウトしていた私の耳に、「青春Night」の”私の人生エンジョイ!!”の言葉だけは真っ直ぐ届いて、心に風穴を開けてくれた。きっと、モーニング娘。は、私含め、崖っぷちにいる人間をたくさん救っているのではないかと思う。それを可能にしているのは、楽曲の魅力、素晴らしいパフォーマンス、そして何より、彼女たちの姿勢と覚悟なのだろう。
私も、”私の人生エンジョイ!!”してみようかな。
文:みのきち
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