カフェイン断ちの記録

カフェイン断ちの記録

「コーヒーのことを『飲みたい液体』ではなく『飲まなければならない液体』と考え出したら終わり」と古事記にも書いてあるらしい。レポートを書くために、洗濯物を干すために、エクセルでデータを整えるために、正気を保っているために……あらゆる生活を成り立たせるためにカフェインが必要になってはいないか? 

ぼくはなっていた。今回は過去に行なったカフェイン断ちについての文章です。

※この文章は個人の体験を記したものであり、医学的見地には基づいたものではないためご留意ください。

義務としてのカフェインを断つ

起き抜けにすぐコーヒーを飲む(カフェインを摂らなければ目が覚めないと思っていた)。

職場に着いてすぐボトルコーヒーを買い、飲みながら午前中のタスクをこなす(カフェインを摂らなければ仕事ができないと思っていた)。ランチを食べて、食後のコーヒー(カフェインを摂らなければ眠くなってしまうと思っていた)。コーヒーを飲みながらメールの確認(カフェインを摂らなければ受信ボックスが開かないと思っていた)……

最後の一文は冗談だが、それ以外は本気だった。「コーヒーを飲まなければならない」と信じ込んでいたのである。

そして、実際にその通りだったのかもしれない。何かの弾みでカフェインの効果が途切れると、猛烈な眠気と脱力感に襲われていたのである。

ぼくは義務のようにせっせとコーヒーを飲み続けたし、飲料メーカーはせっせとコーヒーを発売した。絶えない企業努力でその風味を高め、香りを豊かにした。

その中にはもちろん、デカフェ(カフェインレス)のコーヒーも含まれている。にも関わらず、ぼくはいつも同じコーヒーばかり飲んでいた。安価で・なるべく多くカフェインが入っているものを

そんな生活を続けていると、腹部がきりきり痛むようになってきた。コーヒーが胃を荒らしていたのである。時折動悸が激しくなったし、とんと眠れなくなった。

人間は眠らなければいけないので、眠るための様々な努力を行なった。その努力の中の一つに、カフェインから身を離すことも含まれていた。カフェイン断ちである。

カフェインの摂取量について

そもそも、1日に摂取しても良いとされているカフェインの量は体重によって異なるらしい。

調べたところによると、カフェインの安全な摂取量は成人であれば1回の摂取につき3mg/kg、1日で5.7mg/kg程度(※1)。体重が60kgなら1回180mg・1日342mgまでが上限ということだ。

ただし、カフェインの感受性には個人差があるとのこと(※2)。200mg摂取しただけでも中毒症状が出る場合もあるらしい。

続いて、コーヒーやエナジードリンクなどに含まれるカフェインの量を以下にまとめてみた(※2)(※3)。

コーヒー
(100ml)
約60mg
MONSTER ENERGY
(100ml)
33mg
ミルクチョコレート
(100g)
25~36mg
玉露
(100ml)
約160mg

ぼくがしばしば飲んでいたコーヒー、ポッカサッポロの「ビズタイム 冴えるブラック」(400ml)は1缶にカフェインが240mg含有されていた。ぼくはそれを日に2本飲み、更に朝・昼は別のコーヒーを飲んでいたので、「安全に摂取できるカフェイン量」とやらは恐らく超えていたことになる。

ちなみに、MONSTER ENERGY(500ml)の1.45倍のカフェインが入っている「ビズタイム 冴えるブラック」(400ml)の商品説明は以下の通り。

400gの大容量でも、最後まですっきり飲めるキレのある味わいで、ビジネスマンを長時間サポートするボトル缶ブラックコーヒーです。

ポッカサッポロフード&ビバレッジ

何時間働かせるつもり? 

※1 日経gooday – 知っていますか? 自分のカフェインの「安全量」

※2 NHK – 急増!カフェイン中毒 相次ぐ救急搬送 いま何が

※3 USDA – Beverages, Energy Drink, Monster, fortified with vitamins C, B2, B3, B6, B12

カフェイン断ちにおける離脱症状の覚書

カフェインを断つにあたって、まず行なったことがある。退職だ。嘘だ。カフェイン断ちを理由に職を辞したのではなく、「仕事も辞めたしちょっとカフェインも辞めてみっか」という安直な理由でカフェインを断った。

実際問題、職に就いている状態でカフェインを断つのは難しかった。カフェインを摂取していればしているほど、離脱症状も深刻になる。自分の場合、日中は酷い眠気に襲われ、常に体がだるく、前頭葉が締め上げられるように痛んだ。

また、「コーヒーを飲む」行為と何がしかの作業が紐づけられている場合、その習慣から脱するのに非常に時間がかかる。

「ちょっと文章書くか→じゃあまずコーヒー淹れよう」「洗濯物干すか→そのためにコーヒー飲もう」……日常生活のあらゆる動作に「まずはコーヒー」が結びついていたので、代わりに白湯を飲むなどして自分を騙していた。

カフェインの離脱症状に苛まれている間は、とにかくあらゆるパフォーマンスが低下する。が、眠れるようになったかと言われればそんなこともなかった。相変わらず中途覚醒を繰り返し、何度目かの目覚めで今夜はもう眠れないであろうという諦めに至る。

カフェイン断ちを開始してから1週間はほとんど変化がなかった。強いて言うならトイレに行く回数が減り、コーヒーで胃が荒れないため腹痛や腹部の張りがなくなった程度である。

カフェイン断ちをはじめて2週間程度で、頭痛と体のだるさは徐々に軽減されていった。眠気は相変わらずだったが、無職だったのでしこたま寝てやった。夢の中で誘われたアリスのお茶会で「カフェインダメなんで紅茶もちょっと……白湯いただいていいですか?」と言って帽子屋の機嫌を損ねたりもした。これは作り話です。

カフェイン断ちをはじめて3週間、中途覚醒の回数が少なくなった。ただし、この時期は「眠かったら寝る」というハイパー無敵モードの暮らしをしていたため、睡眠に関してはあまり再現性がない。ただ「布団に入ったのに眠れない」ことはなくなった気がする。

カフェイン断ちの終わりと現在

カフェイン断ちをはじめて間も無く1ヶ月、というところで実家に帰った。冷凍庫にハーゲンダッツがあった。「これ食べてええ?」と母親に聞いた。「ええよ」と母は言った。ハーゲンダッツを食べている時に、「あっコーヒー飲みたい、なぜなら甘いものとコーヒーは最強だから」と天啓が降りてきて、普通に淹れて飲んだ。あっけないカフェイン断ちの終わりである。

それからは特に制限せずにコーヒーを飲んでいる。かといって一時期のように棒が倒れたらカフェインを摂取するようなことはしておらず、1日に1、2杯程度に留めている。飲まない日もあるが、特に離脱症状に悩まされることもない。睡眠は相変わらず浅い。カフェインは関係なかったようだ。

カフェイン断ちのメリットとして、何より「毎日300円掛かっていたコーヒー代が浮く」ことが挙げられる。一時期の僕は家賃やインターネット代とカフェイン代を同列に扱っていた。カフェイン代は固定費だと信じ込まされていたのである。体調も格段に良くなったし、脳がちりちりしたり体の奥がかゆくなったりしなくなった。

デメリットを挙げようと思ったが、「寝覚めがつらい」「集中できない」といった要素はカフェインを摂取しないことでなく自分の能力が原因である。

何事も適度な距離を置いて付き合うのが一番だ。酒、煙草、ギャンブル、性的な接触、そしてカフェイン……依存性の高いものに引き寄せられすぎると、身を滅ぼす。ほどほどにやっていきましょう。

ちなみにこの文章を書くために必要なコーヒーはたった1杯でした。今日はもう飲まないです。

文:渡良瀬ニュータウン(@cqhack)

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