ふだん使いの市役所――都会のオルタナティブな憩いの場について

「この仕事、活字と写真だけが武器じゃん。書きたいこと書こうよ。『剣はペンより強し』、自信持っていこう」

「いやいや体制の前に言論は無力なんですか!?  それじゃあ権力とか暴力に屈してるじゃないですか!  良いこと言うんだったら決めゼリフは正確に引用してくださいよ!」

ボケ/ツッコミがわりとしっかりした職場で、地域紙の記者として働いている。冒頭の発言は編集長(42)、次が新卒2年目の筆者。これぞ中小企業の醍醐味、「アットホームな雰囲気」である。

取材で市の広報課や市民課に話を聞きに行くことが多い。だいたい週に2回、多い時では2日に1回ほど。筆者の年齢は23歳(2019年4月現在)だが、この世代で考えれば多いほうだと思う。

もちろん担当者に話が聞ければそれでよいわけだから、庁舎内をぐるぐると探検する必要はまったくないのだけれど、いかんせん公に開かれた空間だけあって、誰からも拒まれることなくぐいぐいと歩を進められる。いろんなドアを開けてしまう。おまけに市役所で提供されるサービスはだいたいが無料、もしくは低価格だ。市民であれば誰が行ってもよいのだから、それもそうだろう。

と、ここまで書いてきて(そして、おそらくここからも)、なにも目新しい情報がないことに気づくだろう。なんせ市役所だ。けれど、このページは、万が一お住まいの地域の役所・公共施設に行ったことがない(せいぜい、住民票を移しに行ったくらいの)人のために書かれている。

いつ(午前8時30分~午後5時)、誰が(税金を納めていれば)行ってもいいのが公共施設。カフェは高い、コンビニは長居ができない、カラオケはうるさい。市役所は、静寂や平穏を望むダメ人間を受け入れてくれる、ほとんど唯一の場所かもしれない。以下で、はじめて訪れてもそこそこ楽しめる公共施設のサービスを数点紹介する。

※なお、すべての地方自治体がこの原稿に記されてあるようなサービスを提供しているわけではない。この原稿では、東京都町田市を例にしている。為念。

1.座ろう

市役所には椅子がある。待合椅子やベンチなど種類は様々だが、とにかく座れるスペースがある。横になることはできないが、誰からも座ることをとがめられない(混みあっている場合を除いて)。ベビー休憩室もある。

なにがよいかと問われれば、足を組んだり、浅く腰かけて座っても大丈夫なほどゆとりがあるのがよい、と答えるだろう。市立図書館も然り。市民ホールやコミュニティセンター、公民館にも椅子が(場所によっては机も)ある。電車通勤・通学であれば、道中で休憩するスペースを見つけるのもひと苦労だろう。カフェがあっても、都心では混んでいたりうるさかったりするのが常だ。でも、意外と近くに公共施設は点在している。疲れたら、現在地の近くの公共施設を探してみよう。

2.食事をしよう

市庁舎2階には食堂がある。これが美味い。学食のようなスタイルで定食を注文し、料理を受け取り、支払う。安価で、栄養価が表示されているのもうれしい。べた褒めだが、マジでお金に余裕がない人や健康に気を使っている人は安心して利用できる。

さらに1階には、障害者施設で作られたパンやお菓子が販売されている。これも美味い。それから安い。併設されているカフェも、ふだんはあまり混まないから長居できる。

かつ、市役所ということもあって、荷物を置いて席を離れても安心感がある。渋谷のドトールとはわけが違う。「だって市役所だぜ? ここがダメなら全部ダメだろ」というまったく根拠のない自信がある。しかし、そのアテはあながち外れていない、とも思っている。いずれにせよ、あなたも、コーヒーを飲み、ケーキを食べ、荷物を持たずに席を立てば、戻ってくる頃には答えが出ているだろう。さていかに?

3.文化に触れよう

市内公共施設には、読まなくなった本の再利用のため「リサイクルコーナー」が設置されている。「寄贈」という形式をとって、さまざまな種類の本が集められている。

たとえば、蔵書家が亡くなった際などは、大量の文学全集が棚に並ぶことになる。実際、筆者は岡本かの子全集や中野重治全集、宇野千代全集などを手に入れた。ほかにも、80年代~90年代に刊行された書籍が多く集まっている印象があるのだが、ことほどさように、かなり価値のある書籍に出会える場所でもある。

書籍が手に入るという愉しみもある一方で、「リサイクルコーナー」は、その土地の文化レベルが明らかになる空間でもあり、ハッとするラインナップを目にしたときは思わず6~7冊ほどまとめてかっさらっていくこともある。

そしてもう一つ、市内には市民文学館という施設がある。文学資料の展覧会や講演会、講座などが開かれるほか、その土地ゆかりの作家の著作が並べられてあり、図書館機能も備わっている。館内に限り閲覧可能な資料もある。当月号の文芸誌も揃えられていて、それらを喫茶室で読むことも可能だ。講演会のゲストとしていくつか例を挙げれば、ここ数年では円城塔、山下澄人、椎名誠、坪内裕三、三浦しをんなどが登壇している。

どうだろう、結構頑張ってるでしょ?

4.宣伝をしよう

市庁舎4階に記者ボックスと呼ばれる棚がある。いわゆる情報提供コーナーだ。市内で活動する報道機関にチラシやプレスリリース、資料などを渡し、媒体に取り上げてもらう。だいたい朝日・読売・毎日などの大手その他地域紙のボックスが用意されてある。

もちろんすべての情報が取り上げられるわけではないが、公共性の高いイベント、たとえばお祭りやバザーなんかはよく取材する/される。あるいは市の広報に掲載するという方法もある。もちろん無料だ。市内で活動するサークルの会員募集などがよく掲載されてある。広報や新聞のバックナンバーを読むと、じつにさまざまな市民活動が行われてきたことが分かる。

街の歴史はこうして活字として残り、つねに未来から参照される可能性に開かれている。たとえばあなたが、無駄にしたくない、終わらせたくない活動・運動に携わっているとしたら、こうした「拡声器」を利用するのもひとつの手だろう。そこで議論が起こり、なにかが交錯し、はじめて新しい世界が見いだされる。と言ったら大げさだが、しかし実際に市民の請願はこうした「声」の増幅装置によって盛り上がり、形勢が逆転し、そして市議会に承認される、といったケースもある。活字は力になりうる。ペンは剣より強くなりうる。助け船に乗ろう。ひとつの「福祉」として、報道機関をとらえてほしい。

余白に

忘れられていたものを掘り起こす。見過ごしていたものに注目する。つねに身近に公共施設はある。「誰も置いていかない」、受け入れてくれる場所としての公共施設。あなたが困難に直面して立ち止まっているとき、ささやかなブレイクスルーが起こるかもしれない。だから一度、あなたが住んでいる地域の公共施設に訪れてみてほしい。願わくば、ふだん使いにしてほしい。それだけ書いて、筆を擱く。

文:うどん二郎(@JFK_15min

1995年生まれ。神奈川県横浜市青葉区在住。早大文構4年次(2017年)に滝口悠生作品を分析した卒業論文「記憶・語り・「私」ーー滝口悠生論」を執筆後、卒業。東京都町田市で地域紙記者に。あなたも小沢健二が好き?  握手しましょう!

編集: 渡良瀬ニュータウン(@cqhack)

市役所に行くのがだるくて住民票を移さずいたら母親と行政に怒られたことがある