火事が怖くて家から出られない-強迫性障害だったはなし

変なところにこだわりがある人、いますよね

誰でも何かこだわりを持って生活しているのではないだろうか。

こだわりといっても日常生活での小さなこだわりから、仕事や自分がプライドを持って取り組んでいることへのこだわりなど、様々あるだろう。私は元々、変なところでこだわりが深いタイプだ。

そのひとつに「コップの飲み物を最後まで飲めない」ということがある。飲み物を飲んでいても、必ず底のほうに少しだけ残してしまう。なぜかというと、底に沈んだ濃いところや、茶葉を飲みたくないからだ。特に茶葉は飲み込むと何だか体に悪そうで飲むことができない(もちろんそんなことはない)。

変だと分かっていてもやめられない」行為が、日常生活に支障を来し苦痛を感じるようになるまで悪化すると「強迫性障害」と診断される場合がある。よくある例としては「何度洗っても綺麗になったと思えず手洗いをやめられない(不潔恐怖)」「家の鍵が閉まっているか不安で何度も確認してしまう(確認行為)」などがある。私も数年前にそう診断された。

そのときの主な症状は「コップの飲み物を最後まで飲めない」ではなく、「火事が怖くて家から出られない」だった。

火事が怖くて家から出られない

家を出るとき、電気の消し忘れがないか確認するのはよくあることだ。私の場合は、電灯、こたつ、カーペット、充電器、パソコン、テレビ、コンセント、ガス……と、とにかく火の元になりそうなものすべての安全を確認しないと、不安で仕方なかった。

それらを順番に指さし、「○○よし」と声に出して確認することを何十回も繰り返してから家を出る。しかし、今度は本当に家の鍵が閉められているか不安になり、駐輪場と家のドアを何往復もしてしまう。元々心配性だから、慣れない一人暮らしで神経質になっているだけだろう、と思っていた。けれど、そのうち学校に間に合わず遅刻するようになっても、確認する行為が止められなくなる。遠くからチャイムが響くなか慌てて自転車を漕ぎながら「家から出られない。ちょっとおかしいんじゃないか」とようやく気付いた。

「何か自分が変だ」と思いつつも、当時強迫性障害という病気があることを知らなかった私は、とりあえず自分の症状を検索しまくってみた。すると、火事が怖くて家から出られないことや施錠への不安以外にも、当てはまるかもしれない症状が次々と分かり、すぐに受診した。

やはり強迫性障害だと診断され、服薬を始めるとよく効いたのか、遅刻することはほとんどなくなった。今落ち着いて考えてみれば、なんとバカみたいな理由で学校を遅れていたのだろう。けれど、そのときの私は本気で火事を心配していたのだ。学校を卒業するころには服薬しなくても、大きな不安に襲われることはめったになくなった。しかし、その後大きな落とし穴にハマることになる。学校を卒業したあとの慣れない社会人生活で、今度は別の症状が現れるようになったのだ。

車の運転中にちょっとした段差で揺れたり音がすると、もしかして人を轢いてしまったのではないかという加害恐怖で片道30分の通勤に1時間以上かけてしまう。その上、書き写した文字や数字に間違いがないか不安で確認する行為が止められず、仕事に支障をきたしはじめた。

今でも止められないけれど……

今では職を変えストレスが軽減したからだろうか、病院を受診しなくても過度な症状に悩まされることはなくなった。

以前は石鹸をつけて何度も手を洗っていたが、今は水で流すだけで大丈夫になった。お風呂はシャワーでも30分以上かかってしまう。これらの行動は綺麗になったかどうかが問題ではない。「綺麗になったと私が思うまで」が大事だ。何度も手を洗ってしまうのはまあまあ不便だが、そこまでひどく手荒れしなくなったのでよしとしよう。元々風呂好きなので、ちょっと長風呂してもよし。ちなみに実家では一番風呂にしか入ることができない(他人が入ったお湯は家族といえどもなんだが汚い気がして、どうしてもどうしても浸かることができない)けれど温泉や銭湯は大好きだ。矛盾している気もするが、気持ちよく生活できることが一番大事だと開き直ろう。

車の運転で人を轢いてしまったのではないかと思い悩んだ末に、警察に事故届を出したことがある。結局被害者の方からの連絡はなかったのだが、このときはまたすぐに受診した。それでも三年近く毎日車通勤をしていると自信が付くようになり、次第に大きな不安に襲われることはなくなった。普段はこうして何とかやっていけるのだが、心の調子が悪いときに悪化してしまう。こういうときはむしろ「心のバロメーター」として受け取るようにしている。

なんとかやっていこう

コップに飲み物を少し残すのは世間から見れば行儀の悪いことだろう。

私も場合によっては湧き上がる様々な思いをグッと抑えて、飲み干すようにしている。けれど、気の置けない友人の前では「うしろにいる人たち(幽霊とか妖精とか)にあげてるの~」と言い訳をすることにしている。

変なこだわりをもつ自分をなだめすかし、時には病院の力を借りながら、なんとか付き合っていこう。

文:野々原 蝶子(@tyou_ko)

編集:渡良瀬ニュータウン(@cqhack)

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