出ない!−自意識過剰という病

いつからだろうか。横一列に並び、陰部を露出していることに恐怖と緊張を覚え始めたのは。


高校生の頃から、自分以外の人がトイレにいる状況で排尿できなくなった。尿意はある。しかし出ない。とりあえず便器の前に立つが隣や後ろの人が気になり体が固まってしまう。あたかもトイレを済ませたフリをしてその場を離れる。何度こんなことを繰り返してきただろうか。

 

学校の休み時間が怖かった。ただでさえ人のいる状況で排尿ができないのに、特に尿意もない人たちがトイレにはたむろする。その髪の毛をいじる鏡越しに自分を見ているのではないか。そんな考えが頭をよぎる。大人になってからもそんな調子で、今では個室に入るなどしてなんとか対処している。女性の清掃員がいる時なんかはトイレに入ったと同時に踵を返したように出る。華麗なターンだと思う。


我ながら自意識過剰だ。自意識過剰エピソードは溢れるように出てくる。

 

例えば、美容院。自分の中で、美容院イコールお洒落という方程式が成り立っているため、お洒落ではない自分がそこにいるということに過度な緊張を感じる。変な人だと思われたくない。家を出る前に一度シャワーを浴び、入念に髪を洗う。夏場は、美容院へ向かいながら、なんとしてでも汗を掻くまいと苦心する。汗を掻くことはともかく、お洒落が怖いのなら、床屋に行けばいいのではないか。しかし、自意識がどうかしてしまっているので、ダサいとも思われたくない。どんな髪型がいいのかもろくに伝えられず、目の前に置かれた雑誌には手を出せない。美容師との会話も、「はい」や「いいえ」でしか成立しない。いつだって、隣で髪を切る人の笑い声が悲しく響く。

 

人前でなにかをするのがとにかく怖いし恥ずかしい。歌うのだって、踊るのだって、文字を書くのだって、ライブで体を揺らすのだって。大学時代、発表をする授業はことごとく避けていた。4年間、ほぼ人前でなにも自己を表現することなく、ある意味で平穏に過ごせていた。しかし、就活という壁は私にとってあまりにも高すぎた。誰かに向かって自分のことを話すなど到底無理で、頭が真っ白になってしまう。いつの間にか、自分が就活に馴染めないことを、こんな茶番みたいなことして人が人の評価などできるわけがないと、就活批判へとすり替えていた。夏も終わりかけた頃、なんとか内定がもらえた。


そして、今年の4月。働き始めたのはいいものの、あらゆる社会の常識に苦しむことになる。まず、電話だ。誰よりも早く電話を取らねばならず、さらには電話しているところを誰かに見られている状況が恥ずかしい。電話越しの相手の声は聞き取りににくく、こちらは何度も吃ってしまう。

 

飲み会も地獄のようであった。その部署唯一の新人ということもあったし、こんな性格なのでいじりやすかったのだろう。セクハラまがいなことを執拗に聞かれた。彼女はいるのか、自慰はするのか、風俗には行くのか。終始、こんな話で盛り上がっている。あまりにもこれまで生きてきた世界と違いすぎて、とても苦しかった。

 

結局のところ、20連勤や毎週のように求められる会社への泊まり込み、挙げ句の果てには、正社員ではなく、個人事業主だったという驚愕の事実にも直面し、2ヶ月半で退職した。新卒が2ヶ月半で退職するなんて、笑い話のようだし、今でもなんだか他人事のように思えてしまう。

 

会社を辞める数週間前から、心身面の不調のため病院へも通っていた。そこで、抑うつの診断を受けた。さらには、社会不安障害の可能性もあると言われた。単なる自意識過剰だと思っていたものが、障害であったとその時になって知ることとなった。なんというか、腑に落ちた気持ちになった。


星野源やオードリー若林の自意識過剰さは、芸能という形で昇華されるが、無職の自意識過剰は、ただの自意識過剰に過ぎない。こんな自分とどう向き合っていけばいいのか分からないし、なにか一つ克服したかと思えば、また一つ困難なことが増える。

 

最近は、一人で松屋に入れるようになった。松屋は券売機なので安心だ。あの隣の人との距離が近い空間はキツイので基本持ち帰りなのだが、家でゆっくり食べた方が緊張もしないので、美味しく食べられる。小動物たちが巣に餌を持ち帰って食べるのは、安全面などではなく、その方が美味しいからだと信じている。

 

強烈な緊張や恥ずかしさゆえに、普通の人だと思われたいという意識がある。「普通」に囚われない生き方ができればきっと楽になるのかもしれない。世間では、「普通」なんてないんだよと頻繁に言われている。しかし、どうしたって幻想のような「普通」を求めてしまう。「普通」から解き放たれること、それが一番難しいのだ。だから今日も僕は、一列に並び陰部を露出し、あたかもまともなふりをしている。

 

文:ミワ(@Not_sanrinsya2)(Blog)

編集:渡良瀬ニュータウン(@cqhack)

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